マワタデクルム。

蜘蛛の巣に蝶が引っ掛かっている。
そのまま放っておくと、やがて蝶は蜘蛛に補食されてしまうのだろう。

君はかわいそうに思って蝶を逃がしてやるだろうか?

オレはどうだろう?

あるいは、オレは、蜘蛛の方をかわいそうに思うかもしれない。
蜘蛛はなにも悪いことはしていない。
ただ巣を張って餌のほうがかかってくるチャンスをじっと待っているだけだ。

待っていたのは一日かもしれないし、一週間かもしれないし、一年かもしれない。

一年待ち、二年待ち…

もはや餓死寸前のところに、獲物のほうからかかってきたら、理性などぶっ飛び、死に物狂いでむしゃぶりつく気持ち、分かるね。

蜘蛛には卵を糸でくるむ習性がある。
種によってそのかたちは様々だが、一部の種では表面を丈夫な膜で包んだ袋を形成するものがあり、それは繭に似ている。

そういえば、真綿を裂くと、簡単に蜘蛛の巣のようなものが作れるの、知ってる?

昔は、忍者が逃げる際の偽装術としても用いられていたとのこと。
縁の下などに入る際ったとき、竹竿などで蜘蛛の巣を破り、自分は別の方向に逃げ、そこに真綿の糸を張る。
追手に破られた巣の方に逃げたと勘違いさせ、巻いたのだそうだ。

ただ蜘蛛の巣は簡単に破れるけどね、真綿は丈夫。
やわらかいのだけれども、ひっぱっても千切れないくらい強いときている。

真綿は、絹の一種で蚕の繭を煮た物を引き伸ばして綿にしたもののことだ。

蚕の繭から絹を取らずに、羽化かせたら、蛾が生まれるのだけども。
その蛾は弱く儚いときている。

なんといっても交尾のためにしか生まれてこないんだぜ?

カイコガは家畜化された昆虫で、野生には生息しない。
餌がなくなっても逃げ出さず、身体の色は白で自然界では目立つときている。
野外の桑にとまらせても、ほぼ一昼夜のうちに捕食されるか、地面に落ち、全滅してしまうのだ。
体が大きく、飛翔に必要な筋肉が退化していることなどから、羽ばたくことはできるがほぼ飛ぶこともできない。

羽化した蚕が行うのは交尾だけ。
結合したままはねをふるわせて、何時間もずっとつながって、手でひきはがそうとしても、簡単にははなれないほど、固く結びついている。
何日もつながり続けたまま弱って死んでしまうこともあるというのだ。

2年間、オレは告白もせず、息を潜めて、ずっとずっとともぴょんのそばにいた。

オレはともぴょんのそばに巣を張り、好きな女ができたとひらひら自由に飛んでいくともぴょんを、じっと待つともなく見ているだけで幸せだったんだ。

それは、ひょんなきっかけだったのかもしれない。
ともぴょんからオレの巣に引っ掛かってきたのだ。

性欲に餓えきったオレの理性は吹き飛び、ともぴょんの身体を骨の髄まで貪り食うことしかできない。

おいしいおいしい、ともぴょん。
大事な大事な、ともぴょん。

オレの巣はやわらかいけれども、ちょっとやそっとじゃ千切れない真綿の糸だ。

真綿の繭のなか、オレはともぴょんと繋がり続けたまま、いっそ蚕のように死んでしまいたいと思っている。

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