さすがに11月ともなると夜は冷え込むなと入来昭仁(いりきあきひと)は思った。
寮住まいだから部室まですぐそことはいえ、風呂上がりの身体だ。
もう一枚上に着てればよかった。
ケータイなくしたことといい、今日は失敗続きだ。
「多分部室にあると思うんだけどなー…」
暗い部室棟のなか昭仁は足早に英会話サークルの部室へと向かう。
暗い廊下を歩いていくと、部室に明かりが点っているのが見えた。
…こんな時間に誰かいるのだろうか。
昭仁は戸惑いながら、そろりと扉を開けた。
「…春野…くん?」
春野知広が驚いた表情で昭仁の顔を見た。
「…こんな時間に部室でなにしてるの?」
「…お、お前こそ、こんな時間に何で部室なんか来たんだよ?」
昭仁の質問に知広が鸚鵡返しに切り返す。
「オレはケータイ忘れたから取りに来ただけだけど。」
机の上に忘れていたケータイを指差して行った。
「あったー…よかったー!」
昭仁はほっと胸を撫で下ろした。
「…で、春野くんは?」
「オレはぁ…」
春野知広は面目無さそうに呟いた。
「…家、追い出されちゃってさ。」
「ええ!?今どきそんな人いるの!?なんで!?家賃滞納とか?」
「…いや、そういう訳じゃないんだけど。」
知広の困った顔に、昭仁は、なにか自分には言いにくい事情があるのだなと思った。
「ま、いいや!言いづらかったらまた今度でいいし。
てか、ここ寒くない?
部室に泊まろうとしてたの?」
知広はうなずいた。
「寒いけど…行くとこないし。マン喫とかにいこうかとも思ったけど、あんまお金もないんだよね。」
「…なかなか無謀だね。」
昭仁は言った。
「寮だけど。もしよかったらオレの部屋にきなよ。
同室の先輩彼女んとこ泊まってて帰ってこないし。」