春野知広とその母親の話

授業があるから。
善之介は一限目から学校に行った。

オレは、ぼんやりしながら朝の情報番組を見てた。
ふとケータイを見ると珍しく、昨日、母からの電話があったようだった。
着信が1時間ごとに3回ほど入っていた。

「…もしもし?」

折り返すして、7コール目。
買い物にでも出掛けてて出ないかと思った、そのときに、母が電話に出た。

「ともひろ~。アンタ昨日どうしたん?ちょっと心配したわー」

電話越しにだが、久しぶりに聞いた母の声に、ぼんやりしていた頭がはっきりしてくる。

「昨日は…」

話そうとして、一瞬オレは黙った。
これまで、母親にはなんでも話せると思っていたのだが、こればっかりはどうしても話せない。
というか、親にだけは話してはいけないような、後ろめたい苦しい気持ちがした。

「昨日は、友だちの家に泊まってた。」

「友だちって女の子かい?」

すかさず母が切り返してくる。

「んなわけ、ないじゃん!男だよ!おーとーこー!!!」

「アンタそれホンマかぁ?」
母は笑いながら言った。
「まぁええわ。荷物送ろうと思てるんやけど、アンタ週末家にいる?」

「えええええ…荷物ぅ?いつも言ってるけどいいよー。」

「そんなこと言っても…この前アンタに送ろうと思ってジュース買ってきたし。2本だけやけどな。」

なんでも昔、母が学生の頃、祖母は母が栄養不足になってはいけないと思ってか、日持ちのする食べ物や日用品などを送ってくれていたのだそうだ。
母もそれを習って、オレに同じようにしてくれのだが、スーパーもコンビニも、ネットだってあるこのご時世に、なんてアナログ…むしろ送料がもったいないと思うのだが、これが母心というやつなんだろうか。

何度断っても、母は自分に思う通りにする人だった。

「…あー、オレね」

困った。今のオレは宿無しだった。
前の家を出る手続きも、善之介が勝手にとってしまっていたらしい。

「…オレ、引っ越す、んだ…」

一気に喉が乾く。

「え?」

母が聞き返す。

「なんてよう?…引っ越すってかい?そんなことなんの相談もなしになに決めてんの!?
アンタ、ホンマに女と住むんちゃうやろな?
女の子やったら、ちゃんと責任とらなあかんで」

電話の向こうで母が感情的になりだした。

「違うよー!男やて。…善之介のうちに住むんや。」

…あぁ、言ってしまった。

「家賃もったいないから一緒に住もうて。今流行りのルームシェアいうヤツやな。」

オレは母に嘘をついた。

「…ホンマかぁ?そうやったらええけど…。」

一気に沸騰した母の感情が落ち着く。

「お友だちの迷惑にならんようにせなあかんで。
また帰ってきたときに、ちゃんと話なさい。」

オレは母に善之介の家の住所を伝えて電話をきった。

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