春野知広とその母親の話

母との電話を切ったオレの頭のなかは明晰だった。

昨日の夜、善之介とセックスして。
朝微睡みながら、善之介とセックスして。
ぼんやりと時間を過ごしていたが、母親の声だけで、現実に引き戻されてしまった。

母は偉大。

現 実 を 見 ろ !

息子がオカマになったなんて、親には死んでも言ってはいけないことのような気がした。

大学出て
就職して
結婚して
子供ができて
田舎に家を建てるんだ。

ちっさいかもしれないが、それがオレの思い描いてた夢なんだ。
真っ当な将来。

都心の高級マンションにつれこまれて、男にケツ掘られるとか、そんなセレブの戯れに付き合ってる場合じゃないのである。

大学まで親にいれてもらったのだから
ちゃんと勉強して
ちゃんと就職して
ちゃんと女性と結婚して
孫の顔を見せる

就職して、無事一人立ちしたい。
それから、できることなら孫の顔を見せたり、親孝行をしたい。

狂ってしまった将来のスケジュールを建て直すには、とりあえず金が必要だ。
敷金礼金分ぐらい貯めるべく、バイトする必要がある。

それから、善之介からは距離を置く必要がある。
善之介は友だちとしていいやつだが、恋人にはなれない。
カッコよくって、イケメンだけど、どっからどうみても男だ。

善之介はオレを犯したときの写真データを持ってるかもしれないが、そんなものバラ撒いたら、アイツもゲイバレしちまうし。
バラ撒いた瞬間、オレは恥ずかしい思いをし、一方で、ヤツからすると、オレとの関係も解消することになるだろうから、そんなに恐れなくてもいいのではないかと思えるようになってきた。

最悪なのは停滞している今なのかもしれない。

一歩勇気をもって踏み出せば、今よりはすべてよくなるんじゃなかろうか?
少なくとも黙って男にメソメソ抱かれてるだけよりはましだろう。

もしも失敗したら、実家に帰ればいいんじゃないか?
地元に帰って就職して、結婚して、家を継ぐ。
それはある意味親にとっては一番安心するシナリオかもしれない。

オレは勇気を振り絞り、善之介の家を出ることにした。
どうあがいても、男と寝続ける毎日よりはましになるだろう。

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