さよ子と二人きりで飲むのは初めてかもしれない。
お昼を食べたり、お茶したり、そういうことは何度かあったけれども、夜こうして二人きりで会うのは初めてだ。
それにしてもさよ子にフラれて約1ヶ月。
自分からフッておいて、今さら「謝りたい」なんて自分勝手にも程があるというのは、分かっていた。
人の心を弄ぶのもいい加減にしてほしい。
思ってはみたものの、オレは怒ってはいなかった。
むしろそんなさよ子に翻弄される自分が愛しくすらあった。
好きだと分かっている相手に「謝りたい」―許しを乞て、まだなんらかの関係を継続したいという意思表示に、オレは微かな希望を持っていた。
好きなヤツにフラれたとか?
離れてみて、オレが必要だってことに気づいたの、とか?
さよ子に付き合ってください、なんて、言われたりして。
つまり、オレはまださよ子が好きなのだ。
「ごめんねー。待ったー?」
さよ子が遅れてくるのはいつものことだ。
女の子らしい小さなカバンを肘にかけて小走りにやってきた。
ふんわりとした膝丈スカートが揺れている。
「全っぜん待ってないよ!」
かれこれ30分ほど待ってたが、むしろさよ子のことしか考えない、待っている時間はオレには楽しい時間だった。
居酒屋で、オレたちはとりとめのない話をした。
学食の冬限定鍋焼うどんを食べただとか。
ゼミのレポートがウザいとか。
さよ子の友だちの架純にも彼氏ができたとか。
一通り飲み食い、酔いが回ってきたころ、さよ子が改まって切り出した。
「…あのね、春野くん。
この前は、気持ちに応えられず、ごめんなさい。
告白してくれて、嬉しかったです。」
「いいよ、別に。気にすんなよ。」
茄子の一夜漬けをボリボリ食べながら、「度量の広いオレ」をアピール。
「…で、好きなヤツとはうまくいってるの?」
「余裕あるオレ」をアピール。
「それなんだけどね…」
「…うん。」
「フラれちゃいました。」
オレは、箸の動きをさすがに止めた。
キタ━━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━━!!!!!
心臓が狂喜乱舞する。
「…そっか。」
こんなとき、どう言えばいいのだろうか。
沈黙が続く。
「…で、オレにどうしてほしいの?」
オレのS心がムクムク沸き上がり、聞きたいような気もしたけれど、それはさよ子を無駄に傷つけてしまうんじゃないか?という気持ちが勝る。
こんなとき、なんて言うのが、正解なんだろう?
「…じゃあ、オレんとこ来いよ。」
緊張で声がひっくり返らないように、おさえめの声で言うのがまた自分的にはおかしかった。
正面からさよ子を見つめていうことはできなかったけれど、これであってるのだろうか?
キザすぎてさよ子に笑われはしないだろうか。
ドン引きされてたりして。
オレは顔をあげるのが怖かった。
立て続けに2回も傷つくのは本当に怖い。