「ともぴょーん、大丈夫?」
テーブルに突っ伏したままの知広に、坂本が話しかける。
「…よかったじゃん。彼氏と終わってなくて。」
知広の髪に触れて微笑む坂本が、心なしか寂しそうなのを悠希は感じ取った。
「…よくない。…全っ然よくない。」
知広がむくりと起き上がる。
「オレはそんな変態じゃない。」
「『変態』って…」
困惑したような坂本をよそに知広は続けた。
「オレは、普通に女と恋愛して、普通に学校卒業して、普通に就職して、普通に結婚して、普通に子どもつくって、田舎でいいから普通に家建てて、普通に暮らすの!オレは…」
知広は水を飲み干した。
「オレは…いくら掘られたって!気持ちよくたって!男なんか好きにならない!!!」
エキサイトしてつい大きな声になったからだろう。
周囲の学生が一斉に、知広のほうを見た。
「まぁまぁまぁまぁ…落ち着いて!」
悠希が慌てて止めに入る。
「ここじゃなんだからさ、うち来る?…よ、よかったら…キン…えと?名前は?」
「オレ坂本。」
「もしよかったら…よかったら坂本くんも。」
坂本が二人の顔をしばらく交互に見つめる。
「…うーん、今日はやめとくわ。キミら二人もいたら襲っちゃいそうだし、体もたねーし、きっと。」
坂本は冗談混じりに微笑んで、手を振り立ち去った。
悠希の目には、坂本がガックリ肩を落としてるようにも見えた。
ビールにチューハイ。そして、おつまみ。
悠希と知広はコンビニで買い込み悠希の家に向かった。
悠希の家は医学部の校舎に程近い、細長いマンションの2階だった。
ワンルームだったが広めで、ウッディな壁の壁面には巨大なワイヤーラックが一面に備え付けられている。
そこにはDVDが一面収納されており、スターウォーズのフィギュアが並べられ、洋服がかけられている。
真ん中には大きめの液晶テレビがあり、ソファに座って快適に見られるようになっていた。
「DVD超いっぱいあるね。」
「DVD観賞が趣味だからね。」
知広は並んでるDVD見渡した。
ハリウッド映画系が多いなか、なにか見たことある日本人俳優の写ってるパッケージがたくさん並べられてることに気がついた。
なにげなく手に取ってみる。
「わわわ…!ともぴょん、それは!!!恥ずかしいから!!!!!」
「え!?なになに!?!?!?」
知広からDVDを取り戻そう慌てて飛び込んできた悠希を押さえつけ、DVDの裏を見た。
男同士が濃厚に絡んでいる写真がたくさん掲載されている。
それは言わずもがな、ゲイビデオで、しかも主演は坂本。
―キングだった。