深夜の来客に玄関を見に行った悠希が血相を変えて戻ってきた。
「さ…佐々木くんが来てる!」
「えぇ!?!?!?」
小野さよ子の家で殴り回され犯された嫌な記憶が甦る。
「…善之介にここにオレがいること知らせたの?」
焦って問う知広の問いに悠希は首を横に振った。
「僕なんにも知らせてないよ。週末ここに泊まってたけど…また泊めてって今日は着替え持って…」
「はぁ!?!?!?」
知広の胸が嫉妬と不安と怒りでざわつく。
知広もインターフォン越しに善之介が荷物を持って外にいるのを見た。
「アイツ何やってんの!?」
知広は自分のことを棚にあげ、怒りを噴出させる。
「…ちょ!ともぴょん!!!」
悠希の制止も聞かず、玄関へと駆けていき扉を開けた。
「…と、ともぴょん?」
善之介が目を丸くする。
「…なんでここにいんの!?」
「おっ…お前の方こそ、なんでここに来たんだよ!?」
「オ…オレは…」
善之介が言葉に詰まってしどろもどろになる。
「お前、オレんところに戻ってきたんじゃなかったのかよ!?」
悔しくて悲しくて、知広は流れ出す涙を止めることができなかった。
「お前またオレのことあの部屋に独りにするつもりなの!?!?!?」
知広が善之介の胸にすがりついて殴り始めた。
どうにもこうにも目から溢れる涙の止めかたも分からない。
善之介は黙って知広に殴り続けられていた。
「好き放題ヤるだけヤッて、ヤり捨てなんて酷いよ…」
しばらく殴り続けた知広が、善之助の胸のなかで静かになり始めた。
「…それは…それは悪かったよ。謝る。黙って独りにしたことも謝る。ごめん。」
善之介が、知広の肩を抱いて謝る。
知広のすすり泣きが聞こえる。
「ごめん…今日はともぴょんと帰るよ。」
どうしていいのか分からず、その場でおろおろしていた悠希に、善之介は謝って暇乞いをした。
「う…うん。夜遅いから気をつけて帰ってね。」
悠希も言われるがままに二人を送り出すことしかできなかった。
知広は善之介の車の助手席に乗っていた。
「あ…あの。」
しばらくの沈黙を知広が破った。
「オレも、昨日今日と帰るの遅くなってごめん。」
「…うん。」
善之介がぼんやりと応える。
「…独りのときに考えてたんだけど。」
ちょうど信号待ちになった。
「…オレたち距離置かない?」
「…え?」
知広は自分の鼓動が早くなるのが如実に分かった。
…ドッドッドッドッ
車のエンジン音なんか比にならないぐらいに動機が早くなる。
「…な、なんで?」
知広は早くなる鼓動を悟られまいと、できるだけ落ち着いて話すように心がけた。
「ともぴょんにとってなにが幸せなのか、多分ちゃんと考えるべきだと思ったのと。それを考えると、オレは何をすべきか分からなくなったから。」
知広は意識が遠退くのを感じた。
「距離置かない?」
言葉が重くのしかかり、善之介の言葉はまったく耳に入ってこなかった。
信号が青に変わる。車が走り出した。
車は走り出したのに、赤信号の点滅が知広の頭から離れない。
車はいったいどこを走っているのか?
―ていうか、どこ行くの?オレ???
知広は思った。