一晩明けて、知広は善之介の通う医学部の校舎に行ってみることにした。
駐車場に停められている善之介の車を探して、帰ってくるのを待つ作戦に出た。
…若干軽くストーカー気質
知広は自分でも感じたが、電話もLINEも通じないまま、家主の帰ってこない部屋に居候し、毎晩しくしく泣いているのはよくないと思ったのもある。
そして、6限目が終わった夕方。
善之介が車にやって来た。
「…ぜ、善之介!!!」
逸る気持ちと緊張を押さえられず、声が上擦る。
そして、そう叫んだと同時に気がついた。
善之介の後ろにいる、美少年。
美形と美少年が高級車に乗ろうする絵は、一般人である知広からすると異空間。
そこだけ少女漫画の世界だった。
…負けたーorz
知広はナチュラルに思った。
世の中には勝ち組と負け組。
支配するものとされるものがいるなんて言うけれど、二人は明らかに勝ち組だし、支配する側の人間。
オレは負け組だし、支配される側の人間。
住む世界が違うのだ。
スクールカーストでいうと、オレは中の中か、中の下で。
こいつらは上の上。
知広は善之介に
「なんでこのイケメンがオレなんかを相手してるの?」
という素朴な疑問を感じていたが、隣の美少年なら合点がいく。
彼らは結ばれるべくして結ばれたのだし。
オレはただ単に貴族の遊びに付き合わされたただの一般人。
貴族は貴族同士くっついて、一般人は捨てられる運命にあるのだ。
「…ともぴょん。」
善之介が驚いた顔をする。
隣にいた美少年は、知広を見て善之介になにか話しかけようとした。
「…あ、あの。…連絡取れないから心配したんだ。…げ、元気そうでよかった。」
「あ…うん。連絡しなくてごめん。」
知広は大事なことには一切触れることができなかったし、善之介も多くは語らなかった。
「隣の彼は新しい恋人なの?」
「オレたち、もう終わりなの?」
「オレはお前の家を出てけばいいの?」
後からちゃんと整理すれば聞くべき重要なことはあったのだが、今の知広にはショックが大きすぎて、頭のなかは真っ白になっていた。
「…後でちゃんと話すよ。」
善之介は知広に声をかけた。
「送ってこうか?」
知広は首を横に振った。
運転席に善之介、助手席に美少年。
オレはどんな顔して後部座席に乗ればいいのか分からなかったし、家につくまでが拷問すぎて、知広は耐えられる自信がなかった。
それに、家まで送ってもらったあと、再び家を出る善之介を送り出せる自信もなかった。
「…独りで、帰る。」
知広は溢れそうになる涙をこらえ、踵を返して校門を出た。
校門の脇には、遊歩道があって人通りが少ない。
知広は脇道に入り学校が見えなくなるまでしばらく歩くと、膝をおって崩れ落ち、泣いた。