「佐々木くん、これから帰る?ちょっと相談したいんだけど。」
佐々木善之介は村瀬悠希(むらせはるき)とクラスメートだったが、話したことはほとんどなかった。
まともに話したのはこの日が初めてだった。
明るい茶髪のふわふわしたパーマの似合う美少年である。
知広がいなければあるいは、善之介は夢中になっていたかもしれない。
善之介の好みのタイプではあった。
先週の話だろうか、善之介は思った。
図書館の窓から知広とのセックスを見られ、目があったのは彼だった。
「…今日はごめん。人と待ち合わせしてんだ。」
「図書館でセックスしてた子?」
悠希が間髪いれずに聞いてきた。
「…人のセックス覗いてるのどうかと思うけど。」
「…図書館でセックスしてるほうがどうかと思うよ。」
黙った善之介に悠希が言う。
「…ちょっと相談にのってくれないかな?佐々木くんに相談したいことがあるんだ。…週末夜とか時間どう?」
「…週末、友だちと飲みだから、独りで帰ってきてくれる?」
授業終わりに知広をピックアップし、帰る車のなかで善之介が言う。
「…うん。分かった。」
善之介がオレ以外と飲むなんて珍しいなと知広は思った。
まだ入来や坂本とのことを怒ってるんだろうか。
この夜も、善之介はソファで寝ると言う。
「…あの…しないの?」
知広は思いきって善之介に聞いてみた。
「…え?なに?」
「…セックスしないの?」
「…セックスしたいの?」
善之介の問いに、知広はうつむいたまましばらく黙って首を横に振った。
そのそぶりを見た善之介は少しガッカリしたみたいに肩を落とした。
「…じゃあ、別に。今気分じゃないし。おやすみ。」
「おやすみ。」
この週末、善之介は飲みに行ったきり、家に帰ってこなかった。