遠い夜明け

知広が急いで家に帰った。
玄関のドアノブを回すと鍵が開いている。

知広は恐る恐るドアを回し、扉を開けると暗い玄関に入った。
暗い廊下の奥から少し光が漏れているような気がする。

「た…ただいま…」

廊下の奥の扉を開けながら、知広は恐る恐る声をかけてみた。

「おかえり。」

声のするほうに目を向ける。
善之助がダイニングに座っていた。
テーブルにはケータイが置かれている。LINEの返事を待っていてくれたのかもしれない。

「遅かったね。」

善之助が知広を見る目は冷たかった。
針のむしろに座っているような気分に、知広はなった。

「…ずっと起きてたの?」

知広の問いに善之助は黙ってうなずいた。
知広が善之助の正面に座る。

沈黙が続く。

「…どこ行ってたの?」

善之助が重い口を開いて聞いた。
また沈黙が流れる。

「…オレは…オレは友だちとカラオケ。」

「友だちって誰?」

「………」

なんと答えるべきなのだろう。
知広は言葉を慎重に選ぼうとした。

ちょっと前の善之助なら、オレがほかの男とカラオケでも行って朝帰りしようものなら、今の時点で胸ぐらを捕まれ、ベッドに連れていかれ、無理矢理犯されてるだろうなと、知広は思った。

知広は善之助のものだと分からせるようなセックス。
知広を屈服させ、征服するためのセックス。

それをしないというのには、善之助になんらかの変化があったからだろうなと知広はぼんやり考えていた。

なんにしても、それほどオレには興味なくなったのだろう。
オレのことなんか本当はどうでもいいんだろう。

「…前、図書館で善之助がケンカしかけた男!」

―どうでもいい!!!

半ば自暴自棄になって、知広は正直に答えた。

善之助の目の色がハッと変わる。

「…なんかされなかった?」

「…そんなこと!」

知広が声を荒げた。

「そんなこともうどうでもいいんだろ!?」

マズいことを言ってしまったとも思った。
それに自分がしてるのは逆ギレであるとも感じながら、知広は自分の気持ちを止められなかった。

「てか、善之助のほうこそ今までどこでなにやってたんだよ!?人のこと責められんの!?!?!?てかアレ誰!?!?!?!?」

「アレって誰?」

感情的になる知広に善之助が冷静に尋ねる。

「駐車場で会ったお前が連れてた男だよ!」

「…同じクラスのヤツだけど。…ともぴょん、嫉妬してんの?」

「してない!!!」

知広はカッとして叫んだ。
このときはまだ図星を刺されたことに知広自身が気づいていなかった。
理由も分からないまま感情が高ぶり、ボロボロ涙が溢れてくる。

「…ックスだってしないんだろ。」

「え?」

知広が涙声で何を言っているのか聞き取れず、善之助は聞き返した。

「セックスだってオレとはもうしないんだろ!?」

知広が喚く。

「善之介はオレが好きだったんじゃなくて単にヤりたかっただけなんだろ!?男なら誰でもよかったんだろ!?!?!?」

「…ともぴょんはオレとセックスしたいの?」

善之助が触れようとするのを知広は立ち上がって振り払った。

「したくない!…オレは!!!オレはそんな変態じゃない!!!!!」

知広は隣の部屋に行き、ベッドに潜り込んだ。
善之助が追いかけてくるかも知れないとも思ったが、彼は来なかった。

二人はこの日も別々で短い眠りについた。

 

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