19時。
中目黒に着いた悠希は正面改札を出て右手のセガフレードの前で坂本がやって来るのを待っていた。
「中目黒着いたけど今どこにいるの?」
音沙汰もなく不安なまま、悠希は20分ほど待って、ようやく坂本にLINEを入れた。
既読もつかず、返事がない。
―――キング、来てくれるのかな…。
ドタキャンされるのではないかと、悠希はひどく不安な気持ちで立ち尽くしていた。
「悠希くん?」
悠希は自分の名前が呼ばれた方に振り向いた。
短髪に髭を生やした見覚えのある男…本郷が立っていた。
六本木のラブホテルでの苦い思い出が脳裏を過り、悠希は少し胸が痛んだ。
「坂本が急遽仕事で来られなくなったんで迎えに来たんだ。」
「…は、はぁ。」
悠希は会釈しながら、怪訝そうな顔をした。
「仕事場まで車で連れてくよ。」
「…で、でも。」
悠希が躊躇する。
「もうひとり後から友だちが合流するんで。待ってたいんですけど。」
「それも坂本から聞いてるよ。」
本郷がさらりと話す。
「コーヒーでも飲みながら車で待たないか?」
知広を待てるのであれば断る理由もないため、悠希は坂本の後を疑うこともなく着いて行くことにした。
駐車場の途中のコンビニで本郷がコーヒーを買ってくれた。
悠希は車の後部座席に乗り、手渡されたコーヒーを飲みながら、うとうとし始め…その後意識を失った。
「………う…ん。」
気がついたものの、悠希の意識は朦朧としていて、夢見心地だった。
体は重だるく、起き上がれそうにない。
吐き気がする。
しこたま飲んで起き上がれなくなった時のような酩酊状態にも似ていた。
服を脱いで寝てしまったのだろうか。
夢を見ているのかな、と微睡みながら悠希は思った。
徐々に意識がはっきりしてくると、体が自由に動かせないことに気がつく。
上に上がった両足を下ろしたいのだが、足枷がはめられていて、左右それぞれの腕と固定されている。
手には手錠がかけられ、頭でベッドに繋がれていた。
声を出そうにも猿轡が嵌められていてうまくしゃべれない。
身体的な自由を奪われていることに気づくなり、急に恐怖に襲われる。
「んーーーーーーー!!!んーーーーーーー!!!!!」
―――誰か!!!助けて!!!!!
声にならない声を出しながら、悠希は逃れようと左右に身をよじらせた。
ガシャガシャと頭の上で鎖の絡む音が虚しく響く。
「んーーーーーーー!!!んーーーーーーー!!!!」
脚を下に下げ、足枷を外そうと引っ張るだけ、肌に赤く紐が食い込み青く痣ができる。
「んーーーーーーー!!!!!」
悠希は無我夢中で手足を動かそうとしたが、それは無駄なあがきだった。
ついに悠希はボロボロ涙を流した。