ソファの脇にあるカフェテーブルの上に置いてあった、坂本のケータイ画面が光る。
「今度の土曜日、会える?ともぴょんも来るんだけど。」
LINEのポップアップが出ているのが、本郷の目に入った。
坂本は本郷の部屋のシャワーを浴びていた。
今日は「愛人契約」の日だった。
もちろん他人の携帯を見てはいけないことを知っていたが、気になる衝動を本郷は抑えられなかった。
ケータイを開く。
パスコードはこれまで何度も、坂本の手元を盗み見て知っていた。
坂本が風呂場から出てきはしないかとハラハラして、心臓が口から飛び出しそうになるのを本郷は感じていた。
悠希とのLINEに既読をつけた。
過去のやり取りを遡り、先日六本木のラブホテルで鉢合わせた男だと気づく。
「了解。夜でもいい?」
本郷はLINEを打ち返した。
「うん。」
悠希から即レスが入る。
「じゃ19時。いい店あるから中目黒駅で待ち合わせでもいい?ともぴょん来る前に二人で話したいんだけど。」
本郷のレスに既読がついた。
迷っているのか返信がなかなかつかないことに、本郷は焦ってイライラした。
風呂場の扉が開く音が響く。
「いいよ。ともぴょんには20時頃って伝える。」
返信まで5分かからないほどだったが、本郷には永遠にも感じられた。
「じゃ、19時中目黒駅で。」
悠希から「了解」というスタンプが来たのを確認し、本郷は今夜自分が悠希とやり取りした履歴をすべて、坂本の端末から削除した。
―――潰す。
本郷の胸にチリチリと灯ったどす黒い嫉妬の炎が瞬く間に延焼し、胸を激しく焦がす。
「ともぴょん」という人間が誰なのか、本郷は知らなかったし、知ろうとも思わなかった。
ただ悠希を誘き出し、てぐすねを引いて待ち構え、二度と坂本の前に現れられなくしてやることを、本郷は考えた。
「本郷さんち、風呂まで広いね~。」
坂本がパン一で、髪をバスタオルで拭きながらリビングに入ってきた。
「稼いでるからな、それなりに。」
本郷は何事もなかったかのように微笑み、坂本に右手を差し伸べた。
坂本が差し伸べられた手に、左の頬を近づける。
「おいで。」
ペットの大型犬のように、坂本は本郷に従順に従い、ソファに横たわる本郷に馬乗りになった。
本郷が坂本の唇にキスをする。
ディープに舌を絡め合わせる度、延びた髭が口元に当たってチクチクするのは、ある種心地よい痛みでもあった。
「………ふっ。」
本郷が唇を離し一息ついた。
坂本の股間を見たが特に変化がないことに、本郷は少し落胆する。
それに気づいてか気づかずか、坂本が声をかける。
「本郷さん、半勃ちっすね~。」
「おう…舐めて…」
坂本はソファの下に跪き、本郷の股間へと顔を埋めた。
坂本の舌の動きに身を任せ、とろとろに蕩けながら本郷は、次の週末に向けて考えを巡らせていた。