Sleeping Beauty

坂本の家は高井戸にある。

今日はいろいろなことが起こりすぎた。
学校に行き、それから仕事。
仕事では思うように勃起することができず、本郷に迫られた。
ぐったりと疲れきった坂本はベッドに横になり、携帯電話を観た。

「週末時間ある?」

村瀬悠希(むらせはるき)からLINEが入っている。
週末は暇だが、すぐに返事することが躊躇われ、坂本は携帯電話をベッドのサイドボードにうつらうつらしながら、悠希のことを思い出していた。

「…僕、キングと一緒にいたいから。」

「僕、キングが好きなんだ。」

「君と一緒にいられるなら、僕はなんだってする。」

金曜日のホテル街。
ゲイビデオ撮影前、知広を放置して悠希と一緒にいる善之介に、嫉妬するやら、激怒するやら、訳も分からず感情が爆発して、殴りかかってしまった坂本は、自分のせいで撮影を飛ばしてしまったことを反省し、自責の念に駆られていた。
自分のことが嫌になり、消え入りたい気持ちに半ばなっているところに、そんな自分を「愛している」という悠希の顔を見ることもできず、俯いた。

「…ぼ」

悠希が隣の坂本の腕に手を絡ませた。

「…僕じゃダメかな?」

悠希の目は熱を帯び、潤んでいた。
手が坂本の腕を伝い、手を握る。
坂本は、悠希が少し震えているのを感じた。

少し身離し、握る手を離そうとする坂本を、悠希は見上げた。
悠希は、繋いでいる反対の手で坂本の頬に、そして、唇に触れた。

自らの唇を近づけるようとする悠希を避けるかのように制止しする。

「…帰ろうか。」

坂本は作り笑いを浮かべて、悠希に言った。

「…僕じゃダメなの?」

尋ねる悠希から、坂本は黙って目を逸らし、歩き始める。

悠希のことは好きも嫌いも、ほぼ初対面に近いので、特には知らないというのが正直なところだった。

ただ、知広をレイプしかけ、振られた八つ当たりを善之介にしてしまい、あまつさえ仕事をダメにしてしまうような自分など、好きになってもらう価値はないと、そのときの坂本は思っていた。
自分が嫌いな自分を好きになってくれる人間を、好きになることはない。

二人は歓楽街のネオンのなかを歩き、駅へと向かった。
悠希は坂本の後を着いて歩いていく。
坂本の仄かなシトラス系の香水の香りが心に虚しく染みる。

「何線?」

駅に着く手前で、坂本が悠希に尋ねる。

「オレ、こっちだから…」

沈黙する悠希の答えを待たずに、別れようとする坂本の腕を悠希が掴んだ。

「飲みに、行こ?」

悠希の目から涙が溢れる。

「こんなんじゃ、僕、キングのこと忘れられない。」

我慢しようとしても止めどなく溢れる涙を悠希は拭った。

「だから…飲み、付き合ってよ。」

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