蜘蛛の話を覚えているだろうか?
蜘蛛の巣に蝶が引っ掛かっている。
そのまま放っておくと、やがて蝶は蜘蛛に補食されてしまうのだけれども、どうするかって話。
君はかわいそうに思って蝶を逃がしてやるだろうか?
オレは多分、違う。
蜘蛛はなにも悪いことはしていない。
ただ巣を張って餌のほうがかかってくるチャンスをじっと待っているだけだ。
待っていたのは一日かもしれないし、一週間かもしれないし、一年かもしれない。
一年待ち、二年待ち…
もはや餓死寸前のところに、獲物のほうからかかってきたら、理性などぶっ飛び、死に物狂いでむしゃぶりつく気持ちが分かる。
2年間、オレは告白もせず、息を潜めて、ずっとずっとともぴょんのそばにいた。
オレはともぴょんのそばに巣を張り、好きな女ができたとひらひら自由に飛んでいくともぴょんを、じっと待つともなく見ているだけで幸せだったんだ。
それは、ひょんなきっかけだったのかもしれない。
ともぴょんからオレの巣に引っ掛かってきたのだ。
性欲に餓えきったオレの理性は吹き飛び、ともぴょんの身体を骨の髄まで貪り食うことしかできない。
オレの巣はやわらかいけれども、ちょっとやそっとじゃ千切れない真綿の糸だ。
「…ともぴょん、愛してるよ、オレも。」
善之介は微笑んで、オレの頭を撫で、再び優しくキスをした。
それは、ひょんなきっかけだったのかもしれない。
ついうっかり酒にのまれ、善之助に捕らえられてたのだ。
オレが善之介に貪り食われたのは、果たして、身体だったのだろうか?
善之介の巣はやわらかいけれども、ちょっとやそっとじゃ千切れない真綿の糸だ。
オレの身体は…心は、すっかり絡め捕られ、真綿で首を絞めるように。
息もできないほどに狂おしく、善之介を愛してる。
涙が溢れる。
愛している。
真綿でくるまれた蚕。
真綿の繭のなか、オレは善之介と繋がり続けたまま、いっそ蚕のように死んでしまいたいと思うんだ。