村瀬悠希は昨日の晩から、春野知広と佐々木善之介のことを心配していた。
二人は帰っていったけど、仲直りできただろうか
知広とセックスしたことはバレてはいないだろうか
酒が入っていたことだし、入れてもいない。
いろいろな言い訳も頭をよぎるが、結局のところ、それは善之介への罪悪感となって悠希の胸を苛んでもいた。
そんな自責の念があったからだろう。
朝、善之介が昨日と同じ大きめのボストンバッグを持って現れたことに、悠希は後ろめたさを感じた。
…もしも二人が別れたら、それは僕のせいなんだろうか
午前の授業終わりに、悠希は善之介をランチに誘った。
ボストンバッグに視線を落としている悠希に、善之介は気づいていた。
学食の隅に二人は腰を降ろして食事した。
「…昨日はごめん。まさかともぴょんがいるとは思わなくて。」
ひとしきり食べたあと、善之介が口を開いた。
「ううん。たまたま学食で一緒になって帰りにうちに誘ったんだ。僕の方こそ、追い返してごめん。…昨日大丈夫だった?…なんか、大荷物持ってるけど。」
「ともぴょんとは…ちょっと距離置こうと思って。」
善之介は淡々と話した。
「前から…というか、村瀬ちに泊めてもらってたぐらいから考えてたから。」
「…へぇ。佐々木くんも悩んでたんだ。話してくれればよかったのに。ともぴょん…?」
「春野知広、ね?」
本名を知らず呼びにくそうな悠希に、善之介が教える。
「あ、春野くんていうんだ。…春野くんは、大丈夫なの?」
善之介はしばらく黙って考えていたが、口を開いた。
「…分からない。…オレ、ともぴょんの気持ちが分からないんだわ。」
寂しそうに苦笑する。
「ノンケとの恋愛って難しいね。オレ自身もどうしていいのか分からなくなった。」
これには悠希も黙るしかなかった。
確かに春野くんの気持ちがどこにあるのかはハッキリよく分からない。
春野くんは佐々木くんが好きそうではあるけれども、そもそもゲイであることに抵抗があるみたいだったし。
とはいえ、セックスは好きなんだなとは感じたけれども、そこに特定の誰かへの愛があるのかというとそうでもないような気がした。
それに本質的に、二人のことは二人にしか分からないものだろうと、悠希は思い黙った。
「…今夜どこか行く宛あるの?」
悠希は話題を変えた。
「…うーん、どうしよっかなーて思ってる。」
善之介は悠希を見つめた。
不意のことで悠希はドギマギし、目線を外した。
―ウチ来る?
昨日までの善之介になら屈託もなくそう言えたかもしれない。
彼氏とうまくいっていない男を家にあげていいものか、悠希は悩んだ。
怒って悲しむ昨日の知広の顔も脳裏にちらついた。
そしてなにより、昨日一緒にごはんを食べただけだったが、生身の人間として触れたキングのことが強烈に思い出された。
「…泊めてくれる?」
なにも言えない悠希に、善之介が尋ねた。