佐々木善之介の話

何度忘れようと思ったかは分からない。

知広くんは男なんだ。
女が好きな男なんだ。
小野さよ子が好きな男なんだ。

何度も忘れようと思った。

もし、ともぴょんが、さよ子とうまくいかなかったら?

そのときはチャンスなんだろうか?
フラれて弱ってるところにやさしく手を差しのべる。
そしたら―?

いつも飲むのはビール一杯が関の山なともぴょんが、ビールのあと焼酎2杯、ウィスキーロックで飲んだのには驚いた。
よほど飲みたい気分だったのだろうと思った。

もう吐くものもないのに酔いすぎてげーげー言ってるのか
それとも、今は泣くしかないからえんえん言ってるのか

よく分からないともぴょんを担ぎあげ、タクシーに載せる。

「さよ子ー…うーん。うーん。さよ子ー。」

家に送っていくうちに、知広をこんなになるまで惚れさせた小野さよ子に怒りがこみ上げてくる。

付き合ったわけでもないのに、どんだけ純粋にさよ子を好いてたんだろうか…
付き合ってたわけでもないのにフラれただけでこんなになってしまうのなら、いっそ付き合わなくてよかったんじゃなかろうかとも思えてくる。

「ともぴょーん、家に着いたよー」

泣きながらげーげー言い続けるともぴょんを担いで家に上がる。
布団は敷きっぱなしのいつもの部屋だった。

「善之介ー。ごめん、ごめんねー!!!
なんか手がぶるぶる震えるんだけどー…うー…」

「はいはいはいはい、水水!!!!!」

「うー…善之介ぇぇぇぇぇ。独りにしないでくれよぉぉぉぉぉ」

「うんうん、分かったよ、分かったから」

これはチャンスなんだろうか?

泣きじゃくるともぴょんの顔をじっと見つめる。

これは2年待ってやってきたチャンスなんじゃないだろうか?

異様な雰囲気を察してか、ともぴょんが泣き止んだ。

このときを逃したら、私は。
オレは、二度と本当にほしいものを手に入れられないんじゃないかと思った。

「…ぜん…の…すけ?」

ともぴょんの声が震えてたのは、酒のせいだろうか?
それともさよ子のせい?
オレのせいだったんだろうか?

 

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