入来昭仁の話

男子学生用の学生寮は学校と同じ敷地内の奥まった一角だ。
靴が乱雑に散らばる玄関から見える階段を昇り、2階に入来昭仁の部屋はあった。

昭仁の部屋は一学年上の先輩と相部屋だった。
この寮は、学年が上に上がると独り部屋になるようになっていた。

昭仁は知広を一階の浴場に案内した。

「…着替え持ってきてあげるから、風呂入ってなよ。」

昭仁は知広の着替えを取りにいき、脱衣場の扉を開けた開けるとちょうど裸の知広がいた。

「…ひゃっ!!!」

知広はあわててタオルで下半身を隠した。

「…女みたいな反応しないでよ、男同士じゃん。」

乙女のような反応に昭仁は苦笑し、知広は真っ赤になってうつむいた。

「着替え持ってきたからさ、オレ、部屋戻るわ。」
昭仁は着替えを置いて、自室に戻った。

よほど慌てて家を出てきたのか、知広の荷物は少なかった。
洋服などはほとんど持っておらず、学校に来るような荷物だった。
家賃滞納で追い出されたにしては荷物少ないなぁ…昭仁がそんなことを考えてるうちに、知広が風呂から出てきた。

風呂上がりの知広に缶チューハイを手渡してやる。

「ありがと…でもちょっと今酒は、遠慮しとく。」
知広はうつむきながら謝った。

「あれ?酒飲めなかったっけ?あと水しかないけど。」

「水でいい、ありがとう、ごめんね。」

春野くん、こんなに静かなヤツだったっけ?
昭仁は思い返した。
記憶のなかではもっとしゃべる男の印象がある。

よほどショックなことだったのだろうか?

「…なにがあったの?
オレでできることなら力貸すけど。」

知広はうつむいたまましばらく黙っていたが、ふと口を開いた。

「…彼女とケンカしちゃってさ。」

自嘲気味に続ける。

「バカバカしいよね、女のことなんかでさ。
…なんか、他に好きな男ができたとか言うもんだから、家飛び出して来ちゃったんだ。」

…てゆーか、春野くん、彼女いたんだ?
サークル内じゃ小野さよ子が好きだってもっぱらの噂だったけど。

昭仁は怪訝に思ったが、あまり深く詮索する気もなかった。
昭仁の性格は、詮索と噂好きな人々からはほど遠いものだった。

やっぱり噂は噂だけなんだろう。
実際見てみないとなんとも言えない。
昭仁は改めて思いながら、なぐさめの言葉をかけた。

「そっかー。それはつらいね。
他に好きなヤツができたのならしかたないのかもしれないけど、ちゃんと話し合ったほうがいいかも。
ま、気が紛れまでうちにはしばらくいていいよ、先輩が帰ってくるまでだけど。」

「…うん、本当にありがとう。」

今日会って初めて知広が微笑んだ。

「入来くんのおかげでなんか、元気出た。」

 

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