後ろから3列目の窓際。
大教室での講義の時間の坂本の定位置だ。
この日も坂本は、講義を流し聞きしながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
晴れた空を雲が流れていく。
いつものようにぼんやりと外を眺めてはいるが、頭のなかは知広のことでいっぱいで、心は彼を求め、チリチリと焦がれる気持ちが燻っていた。
「彼氏に振られてなくてよかったじゃん。」
学食で撫でた知広のやわらかい髪の感触を思い出す。
坂本が見かけるときはいつも泣いてる知広に笑顔が戻るなら、それはうれしいことだが、寂しい気もした。
「…参ったな。」
久しぶりに感じる胸の痛みに、自ら驚きを感じる。
「…最初見たときは、かわいそうだと思っただけなのにな。」
講義が終わり、校舎の三階から一階まで降りてくると、校舎の入り口に春野知広が入ってこようとしているのが見えた。
彼氏のところに戻ってしまった知広に会うには胸が痛んで居たたまれないような気がして、坂本は知広を避けて別の出口から出ようとした。
「坂本ー!」
坂本に気づいた知広が背中越しに話しかける。
「今からどこ行くの?授業?」
「授業今終わって空いたから時間潰そうとしてるところー」
知広と話すと胸がちくちくと痛んだが、それを隠すかのように、坂本はいつもの明るい能天気な声で話した。
「…そっか」
知広が急に黙った。
「しばらく俺と一緒にいてくれない?…ひとりでいるとつらくなっちゃうんだ。」
知広は力なく笑った。
さみしげな知広を放っておくことは、今の坂本にはできなかった。
二人は授業をしていない空いてる教室に入り、ゆるゆると話始めた。
「どうよ?あれから。彼氏とは毎晩イチャイチャヤッてんの?」
「………」
知広は黙ってうつむいてしまった。
重苦しい空気が流れる。
マズいことを聞いてしまったのだなと、坂本は直感的に感じ取った矢先だった。
「…距離、置こうって言われた。」
無理矢理笑顔を作ろうとする知広が痛々しい。
再びうつむく知広の目から大粒の涙がたしたしと溢れる。
涙を堪えられず静かに泣く知広の姿に、坂本の胸はキュウキュウと締め付けられた。
恋人をこんな気持ちにさせて一人放置する、佐々木善之助に。
そして、隣にいながらなにもできない無力な自分に。
坂本は憤りを感じた。
オレが知広の恋人ならば、こんな思いはきっとさせないのに…
「マジ…毎日泣いてんじゃん。」
坂本はうつむいて涙する知広の髪をやさしく撫でた。
「そんな辛いなら、オレんとこ来いよ。」
撫でていた髪に、坂本はやさしくキスをする。
顔をあげた知広の顔は涙でくしゃくしゃで、目は真っ赤に泣き腫らしている。
知広の頬を伝う涙を、坂本は舌で舐めとり、正面から知広を見た。
「オレならお前をこんなに泣かせない。」