干からびた蛹

「…また派手にフラれたね。」

背後から聞き覚えのある声が聞こえる。
振り向くとそこには入来昭仁(いりきあきひと)が立っていた。

「大丈夫?むっちゃいい音してたけど。」

「…あ…うん。…まぁ。」

オレはまだ少しヒリヒリ痛む頬に手をあてながら返した。

オレたちはコーヒーを注文し直し、テーブルにつく。

「ついこないだより戻したって、超ニコニコしてたからビックリしたよ。」

入来くんがコーヒーを一口飲んで口を開いた。

「…はは。より戻ったと思ったんだけどね。やっぱ1回うまくいかなくなったらなかなか難しいみたい。」

オレは適当にお茶を濁した。

「…ま、終わったことだから前向きに次探すわ。いい人いたら紹介してよ。」

適当な定型文を口にしながら、無理矢理笑顔を作る。

「…まぁ。直後だしあんま無理しないようにね。」

多分オレの笑顔が堅すぎたのかもしれない。
入来くんが本当に心配そうな顔をする。
宿のないオレを泊めてくれただけのことはあるなと思った。

「うん…ありがとう。」

ほっとしたのかなんなのか。
オレはなんだか胸が熱くなり、ポロリと涙を落としてしまった。

さよ子の目の前で善之介に犯されたこと。
善之介に無理矢理連れ戻されたこと。
さよ子には心にもないこと言ってこっぴどくフラれたこと。

入来くんに世話になってから、人には口が避けても告白できないことがありすぎて、心がはち切れそうだったのかもしれない。

いったん堰をきった涙はとめどなく溢れてきて、肩をふるわせうつむくオレを前に、入来くんは黙ってそばにいてくれた。

「…ともぴょん!」

遠くから善之介が呼んでいる声が聞こえた。
あたりを見回すと人はまばらになっていた。

カフェテリアの扉のところに善之介が息をきらして立っている。

「図書館で待ち合わせだったじゃん!!!」

善之介が血相を変えて駆け寄ってきた。

「…ご、ごめん!」

オレは涙を拭いて立ち上がった。

善之介が泣きそうな顔をしてオレの両腕を掴んで抱き締める。

「…また。…またいなくなったかと思ったじゃん!!!」

突然の出来事に入来くんが目を丸くするのが分かった。

「ぜ、善之介!…だ、大丈夫だよ!オレ、どこにも行かないから!…は、離して!!!」

オレは善之介の腕の中でもがき、必死になって振りほどいた。

「…か、帰るよ。い、入来くん、話聞いてくれてありがとう。」

善之介がようやく入来くんに気づいた。

「…いり…き。…ともぴょんとなんの話してたの?」

「…え?あ…いや…」

善之介に突然話を振られたからか、入来くんはあたふたした。
オレがさよ子にフラれた話を、他人である自分が、善之介にするのも気がひけたのかもしれない。

「オレが…!」

オレが横から話に口を挟んだ。

「…オレがさよ子にフラれたから、話聞いてもらってたんだ。」

「…さよ子ちゃんの話?」

善之介は一瞬不機嫌そうな顔をして、入来くんとオレの顔を交互に見るとオレの右手首をつかんで引っ張った。

「…ともぴょん、ちょっと。」

 

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