佐々木善之介がホテルに戻ると、シャワーを浴びた。
頭からシャワーを黙々と浴び、気持ちの整理をしたかった。
髪を拭きながらバスルームから出てきたそのとき、LINEの着信が鳴った。
春野知広からの着信だった。
「…もしもし?」
携帯に出るべきか、一瞬迷ったが、村瀬悠希の「大事にしてあげてよ。」という別れ際の言葉が思い出されたのだ。
「…善之介?」
知広の少し震えているような、緊張している声が聞こえる。
「あのさ…」
沈黙が流れる。
「…あのさ、会って話できない?」
善之介は少し考えた。
今会ってなにか進展あるだろうか?
「…会ってなに話すの?」
善之介が率直に疑問を投げ掛けた。
「…それは…」
知広は黙ってしまった。
「…まだ距離置くってほど置けてないと思うんだけど。ちょっとオレはまだ気持ちに自信が持てない。」
沈黙が続く。
「………」
「………」
「…じゃあ、切るね。」
「…待って!!!」
善之介が電話を切ろうとしたとき、知広の声が聞こえた。
善之介は目を伏せながら大きな息をつき、電話を耳に当てた。
「オレの気持ち伝えてなかったから…オレの話、聞いてよ…」
泣きかけているような知広の震える声。
押さえきれない息づかいが聞こえる。
「…オレ、オレね。オレ…善之介のこと好きだから!」
善之介の胸も高鳴る。
なぜだろう、目頭が熱くなった。
「…はじめは強姦だったし、なにがなんだか分かんないまま、お前に犯され続けてたし。しかも、オレ、なんかヤり捨てされたのかもしれないけど。…オレ、お前のこと好きなんだ。」
途切れ途切れにゆっくりと、しかしながら、はっきりと知広の声が聞こえてくる。
―あぁ、オレはただ、ともぴょんからこの言葉がほしかったのかもしれない。
善之介はひとりで納得した。
訳も分からず熱くなった目頭から、止めどなく涙が溢れてくる。
高鳴って緊張した胸から、ほっと沸き出してくるあたたかな安堵感。
「…オレ、善之介のこと好きだから。…だからね。…て、聞いてる?」
知広が善之介に尋ねる。
「…うん。…うん。。。」
善之介は溢れる涙を手で拭いながら返事をした。
ほっとしたのか、電話の向こうで知広が大きな息をつくのが聞こえる。
「…だからね、オレ、いつでもいいから。善之介に戻ってきてほしい。」
知広が静かに話す。
「…いつでも。この部屋で待ってる。」