「…春野くん?」
トイレから部屋に戻った知広に、昭仁が気づいた。
「…あ…ごめん。起こしちゃった?」
起こさぬようにこっそり入ってきたつもりだった知広が謝る。
「…トイレ?」
「…うん」
扉から部屋の奥へ入ってきた知広の姿が、カーテンから漏れる月明かりに青白く照らし出された。
昭仁は寝返りをうち、再び瞳を閉じ、寝入ろうとした。
「…あのさ。」
知広が口を開く。
「…ん?」
昭仁は半ば微睡みながら応えた。
「オレ、善之介のこと好きなのかもしれない。」
「…んー。」
「だから、こんなに辛いんだなと思った。」
しばらく沈黙が流れる。
正直なところ昭仁にはどうでもいいことだった。
そんなことよりも今は眠りたい。
「…それ佐々木くんに言なよー。」
昭仁は、半分眠りながら夢うつつに話した。
「いつまでも嫌々セックスしてるのそのままにしないでしょ。本当に好きなら」
昭仁が布団に潜り直す。
「大事にしてんだよ、逆に。」
知広は昭仁の背中を見ていた。
ほどなく寝息が聞こえてくる。
―大事にされているんだろうか?
知広は思った。
犯されて、脅されて、暴力沙汰。
さよ子の前でヤられて、拉致監禁。
嫉妬に狂って酷いセックスをされた。
しかも、結局ヤり捨て。
しかし、見方を変えると、そんな暴力的な激情から解放してくれたのは、一種の愛情なのかもしれないと知広は解釈した。
と同時に、自分勝手な愛情だと憤りも感じたし、そんな善之介の気持ちにばかり振り回されて続けている自分が馬鹿馬鹿しくも思えた。
もしかすると今は、自分勝手な愛情を肉体的精神的に押し付けてくる善之介から逃げ出すチャンスなのかもしれない。
―オレは一体どうしたいんだろう?
知広は自問自答した。
―それでもオレは善之介が好きなんだろうか?
これまで善之介に。
いや、周囲に振り回され続けてきただけの自分に気づく。
善之助に、坂本に、村瀬に、そして、両親に。
結局のところ問題は、自分自身だ。
自分の人生の主役は自分自身であって、他人に振り回され続けると録なことはない。
―善之介に自分の気持ちを伝えなきゃ。
知広は気づいた。
気がつくと、カーテンが白みを帯びてきていた。
日が昇ろうとしている。
夜明けは近い。