暖かくはなっていているものの、日が沈むと風が冷たい。
キャップをかぶりうつむき加減なのでよくは見えないが、泣き腫らした目が痛々しい。
何も話しかけない昭仁の後ろを、知広はただただついて歩いた。
「はい。」
カフェテリア脇の自動販売機で、昭仁はホットコーヒーを買い、知広に手渡した。
「暖かいものでも飲んでちょっと落ち着こ。」
カフェテリアは閉館しているので、二人は学食に入った。
食堂の隅に腰かけ、缶コーヒーを開け一口口にした。
コーヒーの暖かさと昭仁のやさしさが胸に滲みる。
昭仁はなにをしゃべるでもなく、肘をつき、なにげなく学食を見渡していた。
「…ありがとう。」
知広はようやく一言お礼を言うと、うつむいて再びポロポロ泣き出した。
少し離れたところに座っているカップルがこちらを見ている。
端から見るとホモの痴話喧嘩みたいだだろうなと、昭仁は思った。
オレはむしろホモから助けただけで、関係ないのに。
周囲の目が気になってはいるものの、かといって不安定そうな知広をそのままにして別れるわけにも行かず、昭仁は口を開いた。
「あのさ…もしよかったらオレの部屋で話さない?」
知広がバッと頭を上げる。
また襲われると勘違いしたのかもしれない。
その顔は青ざめ、不信そうな面持ちだった。
「いやっ!別に嫌ならいいんだけど。あの…オレ、ホモではないから襲ったりしないし。」
昭仁が「ホモではないから」以降早口に話して、再び普段のペースで話を続ける。
「…ただ…大丈夫?」
知広は大きな瞳で昭仁の顔をしばらく見つめていたが、再びうなだれ、うつむいた。
「大丈夫か?」と問われると、大丈夫だと言えば大丈夫だし、大丈夫ではないと言えば大丈夫ではなく、知広は混乱した。
自分は男だし一人で乗り越えなければならないという気持ちもある。
それに、昭仁に迷惑を掛けるわけにはいかない。
ただ、善之助には距離を置かれ、坂本にもひどく傷つけられた直後である今、頼る縁もなく、誰かにそばにいてもらわなければ耐えきれない気持ちもあった。
こんなとき強がりが言えるほどの強さを知広は持ち合わせていない。
大丈夫だと即答しないときは、大丈夫ではないということを昭仁は知っていた。
「…ウチくる?」
念押しのように尋ねた昭仁に、知広はこくりと頷いた。