夜の学食は人もまばらだった。
知広と坂本は学食の一番端のテーブルに向かい合わせに座った。
坂本はカレー。知広はかに玉を、それぞれオレンジのトレーにのせて食べていた。
学食を待ち合わせに指定したのは知広だった。
また居酒屋などにすると過ちを犯しそうで警戒したのもある。
一通り食事したあと、知広は昨日の顛末を坂本に話した。
帰ったら善之介が待っていたこと。
そして、ケンカしたことなどを話し、坂本が相づちを打とうとした矢先だった。
「隣座っていい?」
坂本の隣を見上げると、そこにはゆるふわパーマがよく似合う美少年が立っていた。
週末善之介が一緒に帰っていた、村瀬悠希(むらせはるき)である。
「お。べっぴんだねー」
坂本がヒューと口笛を吹いた。
「ともぴょんの知り合い?」
「知り合い…っていうか。この前善之介と帰るところ、見かけただけだけど…」
困惑した知広に悠希が自己紹介をする。
「この前は挨拶もできずごめんね。僕、村瀬悠希って言います。佐々木くんのクラスメートなんだ。」
悠希が坂本の隣に腰を降ろす。
「ありゃ!?佐々木善之介の新旧彼氏…」
「…ちょっ!彼氏とか!!!ホモ呼ばわりすんなし!!!!!」
公衆の面前で大きな声で、男の恋人呼ばわりされることに慣れていない知広は慌てて坂本が話すのを制止しようとした。
「はは…大丈夫だよ。」
悠希がきつねうどんをすすりながら話す。
「キミ佐々木くんの恋人でしょ?図書館でヤってるの見たことあるし。」
平然と爆弾発言する悠希に、知広と坂本は唖然とした。
知広は図書館で善之介とセックスしたときの記憶を秒速でなぞり始めた。
…確かにあのとき窓の外から自分たちを見るヤツと目が合った。
知広は思わず赤面した。
「てか、図書館でヤってるとか変態じゃん。」
「うるせーよ!」
思わず本音をポロリと漏らす坂本に、知広が間髪入れずツッコむ。
「あと、僕…」
油揚げを食べ終えた悠希が続ける。
「僕、佐々木くんの恋人じゃないから。」
坂本と知広が顔を見合わせる。
「キミは勘違いしたのかもしれないけど、一緒に帰ってただけで、僕らの間にはなんにもないよ。普通にクラスメートなんだし一緒に帰ってただけ。」
知広は思わずテーブルの上に突っ伏した。
ホッとしたのもあるし、善之介に本当に申し訳ない気持ちになったのもある。
大泣きしたのも恥ずかしくもあり、なにより勘違いした自分が嫌になる。
…し、しにたい。
知広は思った。
善之介とセックスしなくなって
善之介が家に帰ってこなくなって
勝手に浮気を疑って
オレたちもう終わりかもと勘違いして
坂本を心配させて振り回し
村瀬くんに嫉妬してた
自分しね
知広は激しい自己嫌悪に襲われた。
…どうしてこうなった!?
そして、知広は果てしない不安に駆られた。
オレはいったいどうしてしまったんだろう?
自分が一体何をしたいのかさっぱりよく分からない。
あるいは、このときの知広は自分の気持ちがまったく自分で認められなかったのかもしれない。
…こ、このまま眠りたい。
知広は考えることを放棄したかった。
オレはこれからどうすればいいんだろうか?
少なくとも今日はどうするんだろう???
帰って、善之介に謝って、仲直りのセックスでもするんだろうか?
…というか、オレは善之介に何を謝るのだろう?
浮気疑ってごめんねってこと???
…それってまるで、
オ レ が 善 之 介 大 好 き み た い じ ゃ ん!!!
オレはそんな変態じゃない!!!!!
知広は強く自分に言い聞かせた。