春野知広の引っ越し

女に振られ、男に掘られたあの悪夢のような日から1ヵ月が経とうとしている。

毎週のようにさよ子とはゼミで会うけども、授業で話す以外は話すことも特にはない。

そういえばこの前、帰り際に
「サークルの忘年会には善之介くんと来てね」
と誘われたけれども、さよ子との距離を置きたいし。
なにより善之介のことは忘れてしまいたいので、適当に誤魔化して帰って来た。

善之介については、この1ヵ月、会ってない。
電話もしてないし、LINEすら既読スルーだ。
アイツとは学部が違うんだし、同じサークルに入ったり、会う約束さえしなければ、二度と会うことはないだろう。

ところで、オレの住んでるアパートはボロアパートで壁が薄い。
壁が薄すぎて、隣の住人の夜の営みが聞こえてくる。
ティッシュを取る音が聞こえるぐらいだ。

逆を言えば、オレの部屋の音もお隣には聞こえてるわけで。
あの日、オレが男相手にアンアン喘いでたのが丸聞こえだった可能性が高い。

あの日以来、オレは、隣の住人とうっかり鉢合わせないかとばかりビクビクしている。
もし出会ってしまったら、どんな顔されるだろうか。

オレは、隣の住人からゲイ認定されているのだ。

そもそもこの家は善之介にもバレてるし。
既読スルー以来特には連絡来ないけれども、ふとした瞬間に、ここにまた来られてしまうかもしれない。

あんなことがあったこの部屋で寝るのも嫌だ。
イカくせーんだよ、なんか!

誰も知らないところへ引っ越そう。
オレは決心した。

 

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