拉致監禁と強制性交等致傷罪の被害者として、悠希は、刑事に事情聴取を受けた。

事の顛末はあっさりとしたものだった。
土曜日の夜、血相を変えて居酒屋を出て行く坂本の異常な様子を察して、岳史たちキングの仲間が警察に通報。
上野のXXXに駆けつけたのだった。

この上ない肉体的精神的苦痛を味わった上に、違法薬物の影響もあるかもしれない。
悠希は大事を取ってしばらく入院することになった。

坂本は1日一回、悠希の病室に顔を出した。
始めは本郷たちと争ったときの怪我の治療もあったのかもしれないが、包帯が取れ、絆創膏が取れても、坂本は悠希の病室にやって来た。
やって来ては特に何を話すという訳でもない。
その日の具合だとか、天気だとか、授業のことだとか、たわいもない話をするのが常で、坂本は黙ってただ、悠希のそばにいた。

―――キングは僕に罪悪感を感じて来てくれてるのかな。

悠希は思っていた。
軽そうに見えて真面目だから…坂本はまた自分を責めてるんじゃないかと、悠希は考えた。

―――僕なら大丈夫だから、来なくていいよ?

何度言おうと思ったか分からない。
ただこう言ってしまうと、逆に坂本の気遣いを無下にしてしまうのではないかという思いもあり、悠希は黙っている他なかった。

その日も坂本は病室にいた。

「悠希ー、大丈夫?」

部屋の扉をノックする音が聞こえ、知広と善之介が見舞いに顔を出した。

「坂本に体調崩して入院したって聞いてさー。連絡してくれたらよかったのに。」

知広がしょんぼりして心配そうな顔をする。
坂本は悠希の様子が落ち着いてから、週末悠希は体調を崩したから会いに来られなかったとだけ伝えた。

「…あ、ごめん。」

悠希は坂本の優しい嘘に気付いて話を合わせた。

「急に体調崩しちゃってさ。」

「いいよ、別に。もう多少よくなったの?」

「うん、大分よくなってきたよ、ありがとう。」

話を会わせるために言葉少なに話すのが却って、本調子ではないよう見える。

「授業のノートは貸すから。しっかり治して。」

善之介も元気付けるように悠希に話しかけた。

授業の進み具合や、悠希の病院での様子など話しているうちに、一時間ほどが経っていた。

「じゃあ、そろそろオレら行くけど…」

知広が話しかけてちらりと坂本の方を見た。

「オレ、もうちょいここにいるわ~。」

坂本が軽く返事をする。

「………。」

知広が一瞬黙る。

「…あのさ、善之介さ。…ごめん、先降りててくれる?」

「…あ、うん?なんか話でもあるの?」

あからさまに自分を追い出そうとする知広に、善之介が訝しがる。

「後で話すから、ね?」

「…あ、おう。」

善之介が気の進まない顔をして渋々病室を出ていく。

「あのさ。」

病室を善之介が出ていくのを確認して、知広は坂本と悠希の方に向き直った。

「…その、『二人の問題』って解決した?」

唐突な話し振りに坂本と悠希はキョトンとした。
伝わっていないことに気付き、知広が言葉を変えて言い直す。

「…その………オレに坂本と、その。セックスしろって話の、解決した?」

あっと思い当たって、坂本が微笑んだ。
悠希の顔が強張る。

「あ~。それね~。ともぴょん、気にしなくていいよ。」

坂本が引き続き軽い調子で話す。

「てか、ともぴょんが佐々木善之介以外の男とセックスしたけりゃ、話は別だけど。」

坂本が知広に顔を近付けた。
思わず、知広は赤面した。

「かっわい~な~。」

坂本がニヤニヤしながら、紅潮した知広の頬を撫でた。

「…やっ!やめろよ!!!バカッ!!!」

知広が坂本の手をはね除ける。

「おっ…と。」

坂本は知広から身を引いた。

「…ていうのは冗談で。」

坂本の顔から笑みが消え、いつになく真剣な表情になって、言い放った。

「マジそれ『二人の問題』っていうか、『オレらの問題』だから、ともぴょん、心配しなくていいから。」

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