A King’s Blessing

「…オレ、坂本とセックスしなくていいよね?」

知広は心配そうに眉をひそめ、坂本と悠希の顔を交互に見た。

「いいよ。」

知広の言葉尻に被さる勢いで、坂本が即答する。

「…てゆーか、オレと『セックスしなくていい』とか、地味に傷つくから何度も言わせないでくれる?」

目元は笑っているものの口許を少しひくつかせながら話す坂本を見つめて、知広は少し黙ったあと、ポツリと呟いた。

「…オレ、単純に二人に幸せになってほしい。」

瞳は今にも涙を溢しそうに潤んでいる。

「だから、オレが坂本とセックスするのは違うと思う。」

悠希は黙って俯いた。

―――ともぴょんが泣くから、ともぴょんにはオレがいないとダメなんだなと思ってた。

坂本は過去形で思い返した。
今、知広が泣きそうなのは、佐々木善之介ではなく、悠希と坂本のせいだ。

―――ともぴょんが泣くから、オレはともぴょんから離れなければダメなんだなと思う。

悠希は黙って坂本のほうを見た。
坂本が「ふっ」と微笑む。

「ともぴょんさー…」

坂本が知広の前髪をくしゃりと掴んだ。

「泣くなら、佐々木善之介んとこに戻って慰めてもらいな。」

―――それに。

坂本はこうも思う。

「オレ、今、悠希大事にするので手一杯なの~。」

「キング…」

突然坂本の口から飛び出した自分の名前に、悠希は面食らった。
知広は涙で濡れそうな目元をゴシゴシ擦りながら頷く。

「ともぴょんは、彼氏に大事にしてもらいな。」

坂本は撫でていた知広の頭から手を離した。

「彼氏下で待ってるでしょ。早く行ってあげなきゃ。」

知広が上目遣いで坂本を見たあと、悠希のほうに目をやる。
それを見て悠希も頷く。

「じゃあ、またね。…また来るよ。」

知広は踵を返して扉を開け、病室を後にした。

知広を見送る坂本の背中を、悠希は黙って眺めていた。

「…さて。」

パタンと扉が閉まるのを見て、坂本は悠希のほうを振り返った。
自分をじっと見つめる悠希と目が合う。
頼まれてもいないのに、知広に、坂本とセックスしてくれなんて頼んだことを怒っていると思ったし、気を使ってであろう。
自分を大事にすると言った坂本に、なんと声をかけていいのか分からず、悠希は思わず俯いて目を逸らせた。

戸惑う悠希を見て、坂本は少し困った表情をし、ベッドの隣に置いているパイプ椅子に腰掛け、脚を組む。

「…なんか食べる?」

悠希は首を横に振った。
坂本は居心地悪そうに一瞬腕組みをして、脚を組み換えた。
サイドボードに置いている雑誌に目を遣り、手に取ろうとしたときである。

「…ごめん。」

悠希が口を開いた。

「…ごめんなさい。」

ベッドの掛け布団に、ポロリと涙が落ちた。

「…ともぴょんに余計なこと言って、ごめんなさい。」

悠希が話すのを、坂本はしばらく黙って聞いていた。
ポトリポトリと涙が零れている。

窓の外の木葉が揺れている。
布団に落ちる木の葉の影がちらついていた。

坂本がおもむろに、悠希の頭に腕を伸ばす。
椅子から立ち上がり、上半身に悠希を抱き寄せた。
坂本の襟足からは微かにシトラス系のコロンの香りがした。

「…そんな謝んないでよ。」

坂本が悠希の右の耳元で囁く。

「好きになるヤツ、好きになるヤツ、笑顔にできないオレ、むっちゃ惨めじゃん。」

悠希は坂本の肩に顔を埋めた。

「お前が心配しなくても、終わった恋の忘れ方ぐらい知ってるし。」

坂本がさらに強く悠希を抱き締める。

「…てかさ。」

悠希は少し顔を上げ、右手の坂本のほうに目をやろうとしたが、きつく身体を抱き締められて、動けずにいた。

「…てか、もう忘れられそうだし、今。」

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