悠希が目覚めると、白い天井が見えた。
そこは固いベッドの上で、頭には包帯。
ごわごわとした病衣を着せられていることから、ここは病院なのかなと、悠希は思った。
窓からはブラインド越しに朝陽が差し込んでいた。
右手は指と指をしっかり絡めて握られている。
そういえば、ベッドの右太もものあたりが重みで窪んでいるのを感じる。
上半身を起こして見てみると、坂本が悠希の手を握り、椅子に座った状態でベッドに突っ伏して寝ていた。
頭には同じく包帯が巻かれていて、目元には痣。
口元には絆創膏が貼られている。
悠希の右手が微かに動いたのを感じたのか、坂本の目がピクピクと動いた。
長い髪が乱れて目元にかかる。
「…う。」
坂本が眩しそうに片方の目をうっすらと開けた。
坂本の目に、自分の方をまじまじと見つめる悠希の姿が映る。
「ん………。痛てっ。」
坂本は目覚めて腫らした目を擦ろうとした。
「大丈夫!?」
悠希が反射的に坂本に声をかける。
「大丈夫?じゃね~よ~。」
坂本が目頭を抑えながら天を仰いだ。
「お前が大丈夫?って感じだよ~。念のため入院しないとだしぃ。」
坂本は悠希の方に向き直り、頭をくしゃりと撫でた。
それは不意の出来事で、悠希にも理由は分からなかったが、ポロリと涙が頬を伝う。
安心したのかもしれない。
「ラッシュキメて…その…輪姦(まわ)されかけるとか…どんだけ~………。」
坂本が言いにくそうに、でも、適切な言葉も見つけられず、ぎこちなくストレートな言葉で話す。
悠希はポロポロと流れ続ける涙を止めることができなかった。
「………てか、ごめん。」
坂本の手が髪から頬へ動き、悠希の涙を拭う。
「………怖い思いさせて、ごめん。」
悠希以上にほとんど泣きそうな顔を寄せ、自分を真っ直ぐに見つめる坂本は謝り続ける。
「巻き込んでごめん。」
「辛い思いさせてごめん。」
「………ごめん。」
悠希は坂本の顔を撫でながら、首を横に振った。
「…ううん。違うよ。違う。」
悠希は坂本の顔を自分の胸に抱き寄せた。
「なんにも悪くないんだよ。」
顔は見えないが坂本の肩は震えていた。
悠希は坂本を強く抱き締めた。
「そんなに自分を責めないで。」
坂本が落ち着いて、二人の体温が一緒になって解け合うまで、二人は黙って、ただ抱き締め合っていた。
―――コンコンッ
扉がノックされる音が聞こえて、二人はようやく離れた。
「はぁい。」
悠希の返事を聞いて入ってきたのは警察官だった。