撮影は代役で進んでいった。
隣の部屋から男の動物のようなあえぎ声がうっすらと聞こえてくる。
坂本は別室で、ぼんやりと、足を組んで座っていた。
嫌がる知広をレイプしかけ、佐々木善之介(ささきぜんのすけ)と街中でケンカ。
撮影を飛ばしてしまった直後、今度は肝心なときに勃たないときた。
―自分で、自分が、本当に嫌になる。
「おいおい~、キング。お前大丈夫か?」
ぼんやりしているうちに撮影が終わったようだ。
カメラマン、本郷武人(ほんごうたけと)が話しかけてくる。
短髪髭の逞しい30がらみの男だ。
「この前は撮影前にケンカ始めるし。」
本郷が坂本の肩に手を置く。
「…何かあったのか?」
本郷がやさしく、静かに尋ねた。
「んー…」
坂本が顔を覆い、気だるそうに呻いた。
少し沈黙して、坂本が呟く。
「…失恋、かな?」
「…失恋か。」
本郷が坂本の肩をやさしく擦る。
「…そー。オレも案外青春してんの~。」
坂本は自嘲気味に微笑んだ。
「…オレ、本気だったんだなーって思ってたとこ。」
寂しそうに笑っている坂本の姿に、本郷の胸がキュンと痛む。
本郷は坂本の肩に置いている手を止めた。
「…キング。」
突然のキス。
不意をつかれ、坂本は目を見開いた。
唇を離す本郷と見つめ合う。
「…キング…!!!」
再びキスをしようとする本郷を坂本は制止した。
「…ちょ、待って待って待って待って!」
椅子から転げ落ちそうになりながら、坂本を抱き締めようとする本郷から逃れようとした。
「…キング、オレの胸で泣け!!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!本郷さん!!!」
坂本は椅子から転げ落ち、尻餅をついた。
「…キング!…オレが嫌か???」
床に倒れこむ坂本に本郷が覆い被さろうとした。
「…いや!…い、嫌じゃないけど!!!」
坂本の言葉に本郷が覆い被さるのを辞めた。
坂本が起き上がる。
「オレ、まだ自分の気持ちの整理ができてないから!」
坂本は混乱していた。
知広をレイプしかけたときの泣き顔と諦めたような顔、自分を蔑むような顔を思い出す。
それから、もう一人、村瀬悠希(むらせはるき)の顔を、坂本は思い出していた。
自分の隣で眠っている悠希の顔。
仕事だから。
体の関係だけの男ならどれだけいても問題はないと坂本は思っていた。
実際セックスだけの割りきった関係を、坂本はいろんな男と続けてきた。
ただ自分に本当に好きな男―知広がいる。
知広を忘れられない今、自分のことが好きな男と曖昧な関係になることを、坂本は恐れた。
「…キング。」
本郷は、坂本の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「オレは、待つよ。」
あまりにも真っ直ぐに見つめられるものだから、坂本は目を逸らすことができなかった。
「お前の心の整理がつくまで、オレは待つよ。」
本郷はひとつ大きく息をついた。
「お前のことを愛してるから。」