佐々木善之介が家を出てから3週間が経った。
知広のいる家に帰るでもなく、シティホテルを転々としていた。
この日も授業が終わると、歓楽街に赴き適当に夕食を済ませ、ホテルに帰ろうとしていた。
LINEには知広から「会って話したい」というメッセージアラートが着ているが、善之介は開かなかった。
人がひしめく大通りを縫って、裏の路地に入る。
裏路地はラブホテル街になっている。
そこで善之介は、村瀬悠希がひとり。
ケータイをチェックしながら歩いているのを見かけた。
マップかなにかを見ながら道に迷っているようでもある。
「…村瀬?」
善之介に呼び止められ、悠希がハッと顔を上げた。
「なにやってんの?こんなところで独りで。」
「え?…えっとぉ…」
思いがけない場所で善之介に会い、悠希はたじろぎ、しどろもどろになった。
「…ま、待ち合わせ?…かな。。。」
「ラブホで?」
善之助が間髪を入れずに質問する。
怪訝なのか、不安そうな、悲しそうな顔をしていた。
「え?…えー…っと。。。」
悠希は誤魔化す言葉も出てこず、俯いてしまった。
「…恋人できたの?」
「…え?…あ、うん。。。」
善之助の問いに曖昧に返事するよりほか、悠希は答えられなかった。
まさか今から、ゲイビの撮影に行くとは言えない。
「…そっか。」
善之介が心なしか寂しげな顔をする。
長い沈黙のあと、善之助が引き続き話始める。
「…そうかぁ。よかった。…前相談してたヤツ?」
「…う、うん。」
悠希は微笑みながら適当にお茶を濁すしかなかった。
その時である。
ガッッッッッ!!!!!
左側から走ってきた坂本に殴られ、善之介が吹っ飛んだ。
「…てめぇ!こんなところでなにやってんだ!?!?!?」
口許を拭いながら善之介が立ち上がった。
倒れ混む善之介に坂本が尚も向かってくる。
「恋人泣かせといて、ナンパしてんじゃねーよ!」
「ナンパじゃないし!!!いきなりなんなんだ!?!?!?」
向かってくる坂本の襟首を掴み、善之介が投げ飛ばす。
思わず坂本に駆け寄る悠希の手を坂本は振り払い、善之介に再び殴りかかった。
「ともぴょん、いつ見ても泣いてんじゃねーか!お前に振り回されてんだろ!!!」
「ともぴょん、お前に関係ないだろ!!!!!」
突然始まった、ガタイのいいイケメン同士の掴み合いの喧嘩に、周囲の人が振り替える。
遠巻きにこちらを見て立ち止まるギャラリーも増えてきた。
「距離とか置いてる間に、オレが無理矢理奪っちまうぞ!!!」
坂本の顔が怒りと悲しみでで紅潮している。
泣いてるのかもしれない。
一瞬怯んだ善之介を突飛ばし、倒れこんだ上から坂本が馬乗りになった。
「ともぴょん、どんだけお前のことが好きだと思ってんだよ!?!?!?!?!?」
坂本が善之介の襟首を掴んで、上半身を引っ張りあげる。
「好きなヤツ、傷つけてんじゃねーよ!!!!!」