勃起しなくても、次の撮影のスケジュールはやってくる。
坂本は珍しく勃起促進ドリンクを飲んだ。
「…悠希と付き合ってんの?」
「…悠希、お前のこと大好きだし。」
「なんで悠希と付き合わないの!?意味分かんないんだけど!!!」
坂本の気持ちを知っていながら、自分と目も合わせずに、悠希を推してくる知広の行動を思い出しては胸が痛む。
―――悠希はいいヤツだって分かってるけど、オレはお前が好きなの!!!!!
知広への愛情が巡り巡って傷ついて、ほとんどトラウマになりかけているのを感じた。
多分、このまま沈んだ気持ちのままだと今日も勃起しない自信がある。
いつものようにネコ役の男性と軽い会話。
いつものように軽くキス。
いつものようにディープキス。
いつものように乳首を弄る。
いつものように相手の男根を手コキで抜く。
いつものようにフェラチオをしてもらう。
知広ではない男のフェラチオでは、思った以上にピクリともしないチンコに、気持ちだけが焦る。
むしろ、こんなことをしている自分に嫌悪感と虚無感を覚える。
撮影している周囲の人々がイライラし始めている空気を感じ、坂本は針の筵に座っているような気持ちだった。
「…ぷっ………はっ……………。」
そのうち顎が疲れたらしく、相手役の女優が口を離す。
「…す、すみません。」
坂本が監督に深く頭を下げる。
「オレ、勃ちません!!!」
「『勃ちません』じゃねーんだよ!お前何年汁男優やってんだ!?!?!?」
台本が坂本のほうに飛んできて、バサッと当たった。
「お前のためにどんだけの人間集まってると思ってんだ!?チンコ勃たせるのがお前の仕事だろ!?!?!?」
監督がヒートアップする。
「どうするよ?お前ネコするか???」
「は…」
坂本が申し訳なさそうに頷きかけたその時、本郷が割って入った。
「…まぁまぁ。ちょうど代わりの男優心当たりありますからすぐ呼びます。」
坂本は何もできない自分に無力感を感じ、俯いて黙っていた。
坂本はビルの外、目立たないところで、本郷が仕事を終えるのを待っていた。
助けてくれた礼を一言言いたいと思ったのだ。
「本郷さんっ!!!」
ビルから出てくる本郷を呼び止める。
「さっきはありがとうございました。」
「そんなこと気にすんなよ。…ちょっと話すか?」
二人は近所の喫茶店に入った。
「お前まだプライベート引きずってんのか?」
「…はい、まぁ。」
本郷がコーヒーを飲むタイミングで、坂本もコーヒーを口にした。
「よくないのは分かってるんで…いろいろ、諦めます。もう少し時間かかるかもしれないけど。」
本郷は坂本の顔を見たまましばらく黙っていた。
「…お前さ。」
コーヒーカップの取っ手を玩びながら、本郷が話す。
「男優辞めて、オレの愛人にならないか?」
突然の申し出にどういう反応をしてよいのか迷い、坂本は無表情で沈黙した。
「金は要るんだろう?でも、勃たないんだろう?」
本郷は組んだ手をテーブルに乗せ、前のめりに話した。
「…は、はぁ。」
坂本が混乱して曖昧に返事する。
「じゃあ、今後の撮影、とにかくキャンセルして、な。」
「…あ。………は、はい。」
「契約は週末2回で30万でどうだ?わりよくなるだろ?」
「は、はぁ………で、でも!」
本郷のペースに飲まれていた坂本だったが、ようやくまともに切り返した。
「オレ、しばらく勃たないかもしれませんよ?」
坂本が本郷の顔をマジマジと見つめた。
「それは…」
本郷が坂本をしっかりと見つめ返す。
「いいよ。キングがヤる気になるまで待つから。」