蒸し暑いものだから、悠希はベランダの窓を明け、ベッドでゴロゴロ考え事をしていた。
しとしとと雨粒が落ちる音が聞こえる。

―――僕が坂本にできることはなんだろう。

六本木のラブホテルでセックスできなかった時のことを思い出しながら、悠希は考えた。
自分では坂本を勃たせることができなかったのだという事実を、冷静に受け止めていた。

「…ともぴょんじゃないと駄目なのかな?」

悠希は呟き、壁のほうに寝返りを打った。
泣くともなく、ポロリと涙が零れた。

午前中曇りだったのに油断した。
傘を忘れた知広は、授業を終え、家路を急いでいた。

雲行きが怪しい。
真っ黒な雲が空を覆い、ゴロゴロと遠くの空で雷が鳴っているのが聞こえる。

「…雨、振りそうだな。」

信号待ちで空を見上げて呟いた、口元がポツリと濡れた。
ポツポツと雨粒が落ちてきたと思った瞬間、ザーザーと本降りの雨へと変わった。

夕立だ。
走り出そうと思ったその時だった。

悠希が自分のさしている傘を半分差し出した。

「今日、こっちになんか用事あったの?」

二人は雨の中、駅のほうに向かって歩いていた。
タイミングよく鉢合わせ、傘を差し出してくれた悠希に、知広が尋ねる。

「…ちょっとね。図書館で調べものしてた。」

「ふぅん。勉強家だね~。」

「そんなことないよ。」

話が途切れる。

知広は土日代官山で悠希と坂本のデート現場に、善之介と鉢合わせたことを思い出していた。
それから、悠希とは付き合っていないと言っていた坂本の言葉。

「………そんなこと、今言う?」

泣きそうなのを堪えるように表情を歪ませた坂本の顔。

それらに思いを巡らせ、知広は悠希になんと声をかけていいのか考えあぐねていた。
その場をやり過ごせるような適当な話題を捻り出そうとしていた矢先である。

「あのさ…」

悠希が重い口を開いた。

「キングとセックスしてやってくれないかな?」

「………」

あまりにも脈絡がなく突拍子もない事柄が起こると、人は時に無反応になる。
思考停止。
急に立ち止まった知広を振り返り、悠希が慌てて戻りながら、傘をさしかけた。

「…ダメ?」

悠希が知広の顔を不安そうに覗き込んで尋ねる。

「………え?………何?もう一回。」

我が耳を疑って知広が尋ね返す。
悠希の緊張した面持ちが一瞬解れた。

「キングとセックスしてくれない?」

「……………え。」

絶句する知広の手に、悠希は持っていた傘を押し付け握らせた。

「僕相手じゃ、キング勃たないんだ!」

降り頻る雨の中、悠希が地面に膝をつき、土下座した。

「ともぴょん、キングとセックスしてあげて!!!」

「ちょっ!!!頭、あげてよっ!!!!!」

知広も慌ててしゃがみこみ、土下座し続ける悠希を傘に入れた。

「頼む!!!!!」

「…えっ!?…てか、とりあえず立と!?!?!?」

腕を掴んで立たせようとする知広の手を、悠希は振り払った。

「ともぴょんが、うんって言うまで僕はここを動かない。」

悠希は頑として立とうとしなかった。
知広は答えに窮して困惑した。
通行人の視線が痛い。

「オ、オレには…ぜ、善之介がいるし。」

知広は苦し紛れに善之介の名前を出す外なかった。

「佐々木くんにバレなきゃOK?」

「…いや………バレなきゃいいとか、そう言うんじゃなくてさ。」

「佐々木くんが好きだから、キングとはセックスできないってこと?」

真っ直ぐに知広を見つめ、詰める悠希の迫力に知広は視線を外した。

「う、うん。まぁ、それもあるし…それにさ!」

「それに?」

「オレで勃つって保証もないわけで!!!それに、第一、村瀬が!!!」

捲し立てて話して、知広は一息ついた。

「お前が!お前がさ!!!坂本のこと好きなんじゃないの!?」

知広は悠希のほうに視線を戻した。
悠希と視線がぶつかる。

「…好きだからだよ。」

悠希が間髪入れずにはっきりと言った。

「好きだから、こうしてお願いしてんじゃん。」

―――何も言うことができない。

知広は一瞬言葉を詰まらせた。

―――でも、悠希自身を傷つけるような、その考えは違う。

知広は悠希との決定的な考え方の違いを感じていたが、それを話すと平行線のまま、悠希は雨の中道路にしゃがみこみ続けるだろうと思った。

「…分かった。」

知広は首を縦に振った。

「とりあえず、3人で話そ。坂本の意見だって聞きたいし。」

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