「…雨か。」

ポツリポツリと雨垂れが落ちる。
坂本は窓の外を眺めて呟いた。

ゼミの教授が授業で使う資料を配布したいととのことで、坂本は資料の印刷を手伝っていた。
教授が書いた分厚い本の指定の箇所を1ページ1ページめくりながらプリンターにかける。
前日に頼まれた訳でもなく、その前のコマがゼミだったため、急遽頼まれた格好で、始業のチャイムが鳴っていても印刷は終わらなかった。

じめじめとした湿気がまとわりつき、プリンタのガシャンガシャンということも音もいつもよりも遅く感じられ、イライラしても仕方ないことは分かってはいても、少し焦っていた。

「…はぁ。」

苛立つ気持ちを落ち着かせるかのように、一息ついた。

「すみませーん。」

坂本の後ろで聞き覚えのある声する。

「資料運ぶの手伝ってって財前教授に言われたので来たんですけど…」

本棚からひょっこりと、春野知広が顔を出した。
プリンターの前にいる坂本の姿を見て一瞬目を丸くし、顔を曇らせ身じろぎした。

プリンターが紙をする音が連続的に響いていた。
ザアザア雨が降っている。

「…あの時は…ごめん。」

坂本が口を開く。
二人は印刷し終えたプリントを抱え、廊下を肩を並べて歩いていた。

「オレ、本当にどうかしてた。本当にごめん。」

坂本は横を歩く知広のほうを見たが、知広はこちらを振り向くでもなく、真っ直ぐ進む方向を見たままだった。

沈黙が流れる。

坂本は悲しくなって視線をプリントに落とした。
息苦しいほど胸が締め付けられる。

「…悠希と付き合ってんの?」

階段の踊り場で知広がおもむろに口を開いた。
急に話しかけられ、坂本は知広の顔を見つめ、足を止めた。
釣られて知広も止まる。

「…いや。」

坂本は一言答えて口をつぐんだ。

「…そっか。」

知広が階段を昇り始める。
坂本はその後ろをのろのろと着いていった。
特に話しはしなかったが、もっと知広と二人でいたいと思った。

「…もうちょっと急いだほうがよくない?」

知広が堪りかねて声をかけた。

「…うん。」

気は進まなかったが、授業は始まっているのだし、坂本は歩を早めた。
階段を昇り、廊下の突き当たりに教室が見える。

その時、知広が再びふいに口を開いた。

「…悠希、お前のこと大好きだし。」

坂本は知広の顔を見つめた。
知広は坂本から視線を逸らせ、少しはやくちになりながら続ける。

「かわいいし、いいやつだからさ。付き合ったらいいじゃん!」

坂本は茫然と知広の顔を見つめ、その場に立ち尽くした。

「…てかさ!」

知広の視線が泳ぐ。

「なんで悠希と付き合わないの!?意味分かんないんだけど!!!」

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