―――参ったな。
悠希の傘に二人で入り、歩きながら坂本は思いを巡らせた。
飲んで行き釣りでセックスしてしまったことは何度かあった。
撮影のあと打ち上げで飲んだ勢いで、その日知り合った「女優」を抱いたこともある。
ただそれらは一夜限りの関係で、お互い後腐れなく、一回こっきりで別れたものばかりだった。
一時的な欲望に身を任せることはあっても、そこには恋愛感情は皆無で、恋人関係になることはなかった。
坂本は「愛」が怖かったのかもしれない。
中学生の頃、坂本が恋した人は野球部の先輩だった。
彼は坂本の気持ちに気づいていたようだった。
地元の夏祭り、彼は当時付き合っていた彼女と遊ぶと言って、坂本の誘いを一度断ったのだが、直前になって彼女に振られたと坂本に電話をかけてきた。
二人で散々遊んで「じゃあね」と別れたあと、坂本はひとりで神社に行って、泣いた。
自分はゲイだから、愛しても報われない。
報われないならいっそ愛さない。
坂本は無意識に「愛する」ことを避けていた。
にも拘らず…知広を愛してしまった罰をまた、坂本は受けたのだと思った。
―――オレの愛は報われない。
そういう運命に自分はいるのだと坂本は思っていた。
坂本がゲイビデオに出演するのも、罪深い自分への一種の罰なのかもしれない。
性癖を晒し、誰も愛さず、己の肉欲のみに忠実に生きていくのが自分なのだと、坂本は無意識に自分を罰していた。
―――オレは悠希の心を弄び、自分と同じ思いをさせるのだろうか。
坂本は、自分のことを愛していると言う悠希が恐ろしかった。
罪深い自分は人に愛される資格などないという無意識が揺さぶられるのが怖かった。
知広という「男」を愛する罪深き「男」を愛すると言う「男」がいるはずがないし、いてはいけないと、坂本は思った。
―――報われないヤツを愛するヤツが報われるわけない。
罪と罰の連鎖。
薔薇色の鎖に絡め捕られ、がんじがらめの坂本の心は、悠希の存在を心のなかで否定した。
「じゃあ僕、学校行くね。」
悠希が手を降って傘を出た。
「…おい!………傘!!!」
坂本はさしていた傘を差し出した。
「いいよ!学校、すぐそこだから!!!キング、さして帰ってよ!」
悠希がバタバタと雨のなかを駆けていく。
それから数日後の今日は、いろいろなことが起こりすぎた。
学校に行き、それから仕事。
仕事では思うように勃起することができず、本郷に迫られた。
ぐったりと疲れきった坂本はベッドに横になり、携帯電話を見た。
「週末時間ある?」
悠希からLINEが入っている。
坂本は悠希のことをしばらく考えた。
「傘、返さないと。」
坂本は思い出し、サイドボードに置いていた携帯を手に取って、悠希にLINEの返信をした。