響き渡る電子音に身を任せながら、坂本は、ホールの隅のほうに座って静かにグラスを傾けていた。
一時的なものだろうが、腹に響く重低音に、胸につっかえた痛みが溶けていくのを感じる。
爆音のなか、色とりどりのライトに照らし出され、諸手を上げて騒ぐ人々の狂騒を見つめていると、不思議と自分の心が平静になっていく。
知広を思う心の痛みも、リズムと酩酊のなかに溶け込んでいくのだ。
「…ねぇ。」
瞳を閉じて音楽に身を委ねていた坂本の耳元で男が囁く。
「火、貸してくんない?」
坂本はゆっくりと瞳を開けた。
左耳にピアスをした髪をオールバックに撫で付けた男が煙草を加えている。
坂本はデニムのポケットからライターを取り出し、火をつけた。
男は煙草を燻らせながら、空いていた坂本の隣に腰かけた。
「独り?」
顔が近い。
「相手探してんだけど、これからどう?」
男の手が坂本の股間に伸びる。
坂本は男が弄るのを好きにさせていた。
「………はぁ。」
思わず吐息が漏れる。
感じる坂本を男は満足そうに目を細めた。
坂本か男に唇を寄せる。
「…トイレ行こっか。」
壁面が毒々しく赤く塗られた、トイレの個室。
「…あ………ふ……………。」
男の舌が坂本のチンコに絡み付く。
坂本がピクピクと感じるのを見て、男は棹を思い切り吸い上げた。
「………あ、くっ。…はぁ。」
たまらず坂本は呻き声を漏らした。
とろとろととろけるように、坂本は男の舌使いに委ねていたが、一方で内心焦っていた。
―――勃たねぇ………
腰へ甘いうずきを感じこそすれ、チンコは半ダチ状態で、以前のように直下たつようには勃起しなかった。
―――交代…しようかな…
坂本が弱気になったその時だった。
ガタッ!ガタガタガタガタガタッ!!!!!!!
「………………ッ!!!!!」
トイレの外扉が派手に開いた。
「お兄ちゃん、かわいいじゃ~ん。」
酔って下卑た片言の日本語が聞こえる。
「楽しませてよ~。」
「……………やっ!!!!!」
掠れた声にならない声。
坂本たちのいる個室を通りすぎ、奥の個室までジリジリと後退りする音が聞こえる。
「…かわいいねぇ………かわいい……………」
―――ホモが酔って絡んでるんだな。
坂本は思った。
一緒に個室に入っている男と共に、固唾を飲んで息を凝らした。
「…あ………やっ…………やだっ………………!!!!!!」
恐怖からか、襲われるのであろう男の掠れて声にならない声が聞こえる。
「…キッ………キッ………………キングッ!!!!!!」
ほとんど裏返った金切り声で自分の名を呼ばれるのに驚き、坂本は思わずズボンを上げ、個室の外に出た。
そこには外国人に抱かれる男―――悠希がいた。