「…む、村瀬!?!?!?!?」
突然背面の個室が開いて坂本が出てきたものだから、悠希が大きな目をさらにぱちくりとさせた。
悠希の顔をなめ回していた外国人が咄嗟に身を離す。
「…お前、こんなところで何やってんの?」
坂本がたじろぎながら尋ねた。
「そ、そっちこそ、こんなところで何やってんの!?!?!?」
悠希が目の前の外国人を押し退け、顔を覆って真っ赤にして質問返しをする。
見ず知らずの男にキスされているのを見られて恥ずかしい思いと、坂本が見ず知らずの男とトイレの個室で如何わしいことをしていたことに対する怒り、そして、それを怒る筋合いは自分にはないという無力感がない交ぜになって、何とも言えない気持ちになった。
「…お、オレは…」
坂本も混乱していた。
別に情事を悠希に見られたところでなんということはないはずなのに、自分でも驚くほど焦っていた。
心臓がバクバクと破裂しそうに鼓動する。
「…オレは、クラブで、ナンパだよ!」
坂本は半ば逆ギレしているときのような、複雑な気持ちで言い放った。
「…てか、なんで、お前こんなトコいんの!?帰ったんじゃなかったんかよ!!!」
「…ぼ、僕はっ!!!」
悠希は一瞬言葉に詰まった。
「…キ、キングのことが心配でっ!」
「心配とか。」
坂本が鼻で笑う。
「…余計なお世話なんだけど~。」
坂本の言葉に悠希は大きく目を見開いた。
悔しくて悲しくて、堪えきれず涙が頬を伝う。
「…セックスしたいなら!」
悠希は言葉を詰まらせながら続けた。
「セックスしたいなら、僕で済ませりゃいいじゃん!!!」
悠希が堰を切ったようにわめき散らす。
「傷つけるなら、とことん傷つけりゃいいだろ!?!?!?!?!?」
我慢できずに、悠希は坂本に掴みかかった。
「中途半端なんだよ!!!!!優しさが!!!!!!!!!!」
いつもの悠希からは想像できない激情に、坂本は驚いてなにもできなかった。
「ヤッて捨てればいいじゃん!僕のことだって!!!」
掴んだ坂本の胸ぐらに、悠希は顔を埋めた。
「…なんで僕じゃダメなの?…なんで?」
悠希の柔らかな髪が坂本の鼻先で震えている。
覚悟したかのように、坂本は目を閉じた。
「…そこまで言うなら。」
坂本は悠希の左手首を強く掴んで引き寄せた。
耳元で囁く。
「オレ、全っ然優しくしないけど。」